大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成3年(オ)1661号 判決

大阪市北区梅田一丁目一一番四-七〇〇号

上告人

モンロー株式会社

右代表者代表取締役

西田隆司

右訴訟代理人弁護士

大嶋匡

静岡市相生町六番二一号

被上告人

日本ヘルスメイト株式会社

右代表者代表取締役

鈴木正久

右訴訟代理人弁護士

増田堯

小野森男

立石勝広

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(ネ)第三一一八号不正競争行為差止請求本訴、営業表示使用差止請求反訴事件について、同裁判所が平成三年七月四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大嶋匡の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、原審の認定に沿わない事実に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平 裁判官 味村治 裁判官 小野幹雄)

(平成三年(オ)第一六六一号 上告人 モンロー株式会社)

上告代理人大嶋匡の上告理由

原判決には、以下に述べるとおり主文に影響を及ぼす事が明らかな違法があり破棄されるべきである。

一 加盟店契約の成立

1 加盟店契約は、一般には本部が加盟店に自己の営業表示及び経営ノウハウを用いて同一と見られるイメージのもとに事業を行う権利を与え加盟店はその対価を支払うことを約する契約と解されている。

2 ところで原判決は上告人代表者西田隆司(以下単に西田という)の内心の意思としては、被上告人の店舗を自己の店舗と考えていたということはありうるが、上告人との間に上告人主張の加盟店契約が締結されたものとまでは認めることができない旨認定する。そして右内心の意思は第一号店の静岡店開店に至る話合時を指すものと解される。従って原判決は、右話合いのなかで、西田は内心は加盟店契約を締結する意思であったにもかかわらず、原判決が認定するように単にジェットスリマーをリース(被上告人は売買と主張している)すること及びその営業表示としてジェットスリムクリニック(以下本表示という)の使用を申入れたにとどまり、加盟店に関する条件は提示していないと認定したこととなり、きわめて不合理である。西田が右内心の意思を有しているとすれば、被上告人が加盟店になることを前提としてその条件として右リース及び営業表示の使用を許諾したと認めるのが経験則に合致する。又原判決はチラシの買取りについて中部地区の加盟店は実質的にロイヤルティ徴収の手段とするために買取義務を課されたものと認定しながら、本件についてはジェットスリマーを買受けた被上告人の営業上の便宜からチラシを買取ったものと推認されるとする。右推認のうち第一にジェットスリマーの買取りは前記リースとの認定と齟齬している。第二に被上告人は第一号店の静岡店開店時にチラシ一枚を四円で二回にわたり計二0万枚を金八0万円で買取った後は、同店のチラシは被上告人において独自に作成し使用していたのであるから、その後開店した浜松店、沼津店においては上告人から高いチラシを買わなくとも独自に作成したチラシを使用すれば足る筈であり、原判決が推認するように少なくとも後の二店については営業上の便宜からチラシを買取る合理性は全く存在しない。以上のとおり加盟店契約の成立を否定した原判決の認定は著しく経験則に違反しており、理由不備の違法があるというべきである。

二 差止請求権行使の不適法性

1 被上告人の悪意

上告人は原審において不正競争防止法(以下法という)は公正な競業秩序の維持を目的としていることから、周知の状態は善意で招来されることを要する旨抗弁したが原判決は右抗弁を事実摘示していないので民事訴訟法一九一条一項二項に違背し違法である。仮に弁論主義に違背していないとしても、右善意が要件とされるから、ある者が既に特定の営業表示を使用して営業を行っている者から当該表示の使用許諾を受けて同種の営業を開始し、特定地域に於いて当該表示にき周知性を取得した場合において使用許諾が加盟店契約によるものでないとしても許諾者に対する関係では善意の要件をみたさないというべきであり、同一地域における当該表示の使用を排斥することはできないものである。原判決は被上告人は上告人の本件表示の使用申入れを承諾して使用を開始した旨認定しているのであるから右開始時に善意でないことは明白である。ところが原判決は善意の必要性の有無につきなんらの判断を示すことなく被上告人の差止請求権を認容しており、法の規定する差止請求権取得に関し法一条一項の解釈適用に誤りがあるというべきである。

2 先使用の抗弁

原判決は法二条一項に規定する先使用の抗弁は、ある者が他の者の営業の表示が周知性を取得する以前にその他の地域においてその営業の表示を使用していたことが必要であるところ、上告人は被上告人の使用によりジェットスリムクリニックの表示が静岡県内において周知となった際、同地域においてその表示を使用していなかったものであるから上告人が先使用の抗弁を主張することはできない旨判示するが、これは右抗弁に関する法令解釈を誤っている。前記のとおり法は公正な競業秩序の維持を目的としていることから、周知の状態は善意で招来されることを要求するとともに右目的の趣旨にそって先使用の抗弁を認めている。従ってある者がある営業表示の使用許諾を受け、特定地域で周知性を取得した場合に当該地域で許諾者が現実に営業所を設け営業表示を使用していない場合であっても、後述するような状況下においては先使用の抗弁を認めるべきである。即ち、現代はテレビ・新聞・全国誌などの全国的な広告媒体による広告宣伝が企業活動の重要な位置を占めるに至り、特にフランチャイズ制を採用する企業にとってはその使用する営業表示を右広告宣伝により全国的に流布することは企業活動の中核を占めるものといっても過言ではない。そのためフランチャイズ制における本部は全国展開を意図し、巨額の費用を投じて全国的にその用いる営業表示を広告宣伝し企業イメージを高めるのである。従って全国にわたり営業活動と宣伝活動を積極的に行い直営店、加盟店が全国的に展開されている場合は、各都道府県毎に出店していなくとも全国における周知性の取得が認められるべきである。

そうでなければ、フランチャイズ制を採用し巨額の広告宣伝費を投下した本部は少なくとも各都道府県内に一つの営業所を設けない限り全国的な周知性を取得したとは認められず、営業所を設けていない特定都道府県内で第三者が出店した場合その差止めを認められないばかりか、当該第三者が周知性を取得すると本部は対象都道府県内での出店は不可能となり不合理な結果となる。このように大きく時代が変化し、広告宣伝が強い影響力をもつフランチャイズ制が発達、確立した現代においては「営業の表示の使用」とは原判決が判示するように、係争地域に営業所を設け現実の営業活動を行うことが必要と一律に解することは適切でない。少なくとも本件のようにフランチャイズ制を採用する企業の先使用の抗弁の判断にあたっては、第一に相手方が本部がフランチャイズ制を採用し全国的な広告宣伝を行っていることを認識しているか否か第二に相手方が係争地域において周知性取得時に本部はどの程度の広告宣伝を行い、その営業表示が著名となっていたか否か、第三に本部が具体的にどの地域に営業所を設けて営業活動を行っていたかを判断し、相手方が右認識を有していること、本部が全国的に著名性を取得しかつ係争地域の隣接地域において営業所を設け周知性を取得するに至っている場合は先使用の抗弁を認めるべきである。これを本件についていえば原判決が引用する第一審判決は、上告人は全国に渡り営業活動・宣伝活動を積極的に行い直営店、加盟店が北海道を除いて全国的に展開されていること、上告人の宣伝費に費やす費用、営業活動等が被上告人のそれに比べてかなり大きいこと等から、全国的には上告人の「ジェットスリムクリニック」の方が被上告人のそれより著名であると推認していること及び被上告人は静岡県内で本件表示の周知性を取得するまでに上告人のフランチャイズ性の採用及び右推認事実を認識していたこと、上告人は静岡県に近接する中部地区において多数の直営店、加盟店を開設し、かつ被上告人もこの事実を認識していたことをあわせ考えれば原判決のように単に上告人が静岡県内に出店していない事実のみをとらえて先使用の抗弁を排斥したことは法二条一項の解釈適用に誤りがある。

3 権利の濫用

原判決は仮に上告人が自己の利益のためにした全国的な広告宣伝の効果が寄与していることがあるとしても被上告人が、上告人が静岡県内において直営店又はフランチャイズ制による加盟店により被上告人の営業の表示と同一の表示を使用することによる取引の混乱その他の不利益を甘受しなければならない理由はなく、それを排除するため上告人に対してその表示の使用の差止めを請求することは正当な権利行使であり、上告人の権利の濫用の抗弁は理由がないと判示するが民法一条の解釈適用を誤っている。即ち被上告人は上告人から本件表示の使用申入れを受けて使用するに至ったものであり、以後上告人が巨額の資金を投下して全国的な広告宣伝を実施し、本件表示のイメージアップに努めていることを知悉し、右宣伝効果の寄与を受ける一方で使用開始時に静岡県内では被上告人が本件表示を専用することを合意したこともないうえ、上告人は一県に多数の直営店、加盟店を開設していることから近い将来静岡県内にも出店する可能性があることは容易に予見できた。そこで被上告人は静岡県内における本件表示の専用権を主張するため上告人との間で右専用の合意をした旨の虚偽の主張をしたのである。しかも被上告人は上告人に無断で本件表示につき治療用機械器具に対する商標登録を申請するという信義則に反する行為も行っているのである。

このような状況下では被上告人が静岡県内で本件表示についての周知性を取得したとしても、上告人の本件表示の使用は信義則公平の原則からいって受忍すべきであり、被上告人の本件差止権の行使は権利の濫用と解すべきである。

以上

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